盛岡家庭裁判所水沢支部 昭和43年(家イ)23号 審判 1968年4月13日
申立人 山田サト子(仮名)
相手方 立川宏(仮名)
未成年者 立川元子(仮名) 昭二九・一・六生
利害関係人 内田貫二(仮名)
〃 岡部和夫(仮名)
主文
一 未成年者を監護・養育している利害関係人内田貫二は本件調停および審判終結に至るまで、申立人以外の者(相手方も含む)に未成年者を引渡してはならない。
但し、岩手県児童相談所(担当 胆沢福祉事務所児童福祉司)および水沢市福祉事務所と協議して、その同意を得た場合はこの限りでない。
二 相手方は、本件調停および審判終結に至るまで利害関係人内田に対し未成年者の引渡しを求め、或は直接未成年者を引致し相手方の支配内に置いてはならない。
三 利害関係人岡部は利害関係人内田に対し未成年者の引渡しを求め、或は未成年者の意思の如何に拘らず、未成年者を引致し、自己の支配内に置いてはならない。
理由
一 未成年者は申立人(母)と相手方(父)の長女であるが、申立人と相手方は昭和三七年六月二日未成年者の親権者を相手方(父)と定めて協議離婚した。
二 相手方は未成年者の親権者となつたが現在まで未成年者を養育したことはなく、未成年者は主として申立人(母)方の祖母等に育てられ、祖母が水沢市内の○○○□□劇場に住込みで働いた関係から未成年者も同劇場内に生活するようになり、祖母が劇場での住込みを辞めてからも未成年者のみ同劇場に起居し、中学校に通学するに至つた。
しかし、未成年者が中学二年生に成長するに及んで同劇場に起居することは未成年者の情操、身体の健全な育成に不相当な点があると考えられたため、申立人は昭和四三年二月八日本件審判を申立し、親権者を申立人に変更したうえ、申立人が未成年者を保護することを希望した。
三 相手方は現在再婚し、妻との間に二子があり、申立人も再婚し近く一児を出産する予定であるため、未成年者在学の中学校および水沢市福祉事務所、岩手県児童相談所は申立人と協議し、昭和四三年三月一一日未成年者を○○○□□劇場から引渡しをうけ、未成年者の保護に適切と思料された申立人の親族に当る利害関係人内田宅にとりあえず養育を託した。
四 その結果、未成年者は快活・明朗な生活を始めたのであるが、最近、相手方および利害関係人岡部が、こもごも独自に未成年者の身柄の引渡しを求めて、利害関係人内田宅に赴いたり、未成年者に直接面談することを求めたりして来ている。特に相手方は四月一五日未成年者を引取ると申出ている。
五 相手方は当庁の照会に回答しないので当庁は相手方住所を管轄する千葉家庭裁判所に相手方の審問を嘱託し、本件は審判係属中である。
六 未成年者の親権者たる相手方は遠方に居て、これまで未成年者と長く別居し、また上記岡部の生活圏内に未成年者をおくことは不適当と考えられ、更に母は出産期にあつて、直ちに直接未成年者を保護出来ない事情にあるが故に、関係機関の配慮によつて、未成年者の生活の場を利害関係人宅に定められた事情を考えると未成年者保護の名の下に各自独立に未成年者の引取りを求めることは、同一中学校の最終学年に通学を始めた未成年者を混乱させ却つて、その保護の実質を侵すことになる。
七 よつて本件記録と関係人の意見を検討し、緊急を要する未成年者の保護の適正を図るため、家事審判規則一三三条により調停前の措置として、主文のとおり命ずる。
(家事審判官 丸山喜左エ門)
この審判に違反した場合には金五、〇〇〇円以下の過料に処する。
参照 経過の概要
一 申立時(四三・二・八)相手方は所在不明であつたため、調停でなく審判が申立された。
二 審判係属後、受理庁の調査により相手方の住所が判明し相手方と連絡がとれたため、相手方は未成年者の現況を知つた。
三 未成年者の生活の安定を害するおそれある周囲の動きが始つたが、親権者変更審判事件(乙類七)には、審判前の仮の措置が認められていない。
四 よつて、事案を調停に付し、調停前の措置として、現状の一時固定化を図り、調停または審判手続の中で、未成年者の親権者、監護者の終局解決をなす必要を認めた。